2010年05月19日
損害賠償請求
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第1 請求(第1事件・第2事件)
1 主位的請求
被告会社及び被告Aは,原告に対し,各自金6299万1750円及びこれ
に対する平成9年10月7日から同支払済みに至るまで年5分の割合による金員を
支払え。
2 予備的請求
被告会社及び被告Aは,原告に対し,各自金5459万9240円及びこれ
に対する平成10年2月12日から同支払済みに至るまで年5分の割合による金員
を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が,株式取引の経験が全くない投資不適格者であるにもかかわ
らず,被告会社B支店の従業員であった被告Aから,株式会社さくら銀行(以下
「さくら銀行」という。)の株式(以下「さくら銀行株」という。)につき,必ず
値上がりする旨の断定的判断を示され,適切な助言,説明を何ら受けないままこれ
を購入するに至ったとして(主位的請求),また,その後の株式売却に当たって
も,も近い時期に必ず株価が上昇する旨の断定的判断を示され,その売却を断念さ
せられたとして(予備的請求),被告会社に対して債務不履行(民法415条)又
は不法行為(民法715条)に基づき,また,被告Aに対して民法709条に基づ
き売却損及び本訴追行のための弁護士費用につき損害賠償を請求した事案である。
1 争いのない事実
(1) 当事者
ア 原告は,平成9年10月7日,被告会社との間でさくら銀行株につき売
買委託取引を行った者である。
イ 被告会社は,有価証券の売買等の媒介,取次ぎ及び代理並びに有価証券
市場(外国有価証券市場を含む。)における有価証券の売買等の委託の媒介,取次
ぎ及び代理等を行うことを目的とする株式会社である(平成11年4月26日旧商
号「大和証券株式会社」から現商号に変更。)。
ウ 被告Aは,平成9年当時,被告会社B支店投資相談課次長の地位にあっ
た被告会社の従業員である。
(2) さくら銀行株に関する取引
ア 原告は,平成9年10月7日,被告会社に対し,さくら銀行株の買付委
託をし(以下「本件買付委託」という。なお,買付委託時の状況,買付数量,買付
金額については,後記第3の1(1)ア(ウ)c,イ(イ)(ウ)。),同株合計26万株
(以下,一括して「本件株式」という。)を購入した。
イ 原告は,平成10年8月25日及び26日,本件株式のうち16万株を,
同11年8月19日,残りの10万株を各売却した。
2 争点
(1) 主位的請求
ア 本件買付委託時における断定的判断の提供の有無。
イ 本件買付委託時における説明義務違反の有無。
(2) 予備的請求
ア 断定的判断の提供によって,原告は本件株式の売却を断念させられたか
否か。
イ 本件株式の売却に関する説明義務違反の有無。
(3) 被告会社及び被告A(以下「被告ら」という。)の責任の有無。
(4) 損害の有無,額。
3 当事者の主張
(1)ア 争点(1)ア(本件買付委託時における断定的判断の提供の有無)につい
て
(原告の主張)
被告Aは,本件買付委託に際し,原告が,本件株式のうち1万株を購入した後,原告に対し,「小幅揉み合いで上がります。急いだ方がいいです
。」と言って,確信があるかのように,必ず値上がりするので今のうちに
是非買うべきであるという断定的判断を述べて,株式取引の知識及び経験がない原
告をして,必ず値上がりするものと誤信させ,本件株式の残り25万株の一括大量
購入を勧誘した。
(被告らの主張)
被告Aは,原告から本件買付委託を受けた際,予め原告に対して勧誘を
していないし,本件株式の株価について,「小幅高でもみ合っている」と現在の状
態を説明したにすぎず,今後の株価の騰落に関する断定的判断)
(平成10年法律第107号による改正前の証券取引法50条1項1号)
を提供していない。
イ 争点(1)イ(本件買付委託時における説明義務違反の有無)について
(原告の主張)
(ア) 原告と被告会社間には,株式取引に関する委託契約が締結されてお
り,被告会社は原告に対して善管注意義務を負うから(商法552条2項),被告
らは,原告に対し,専門的立場から適切な助言,説明,情報を与えるべき義務を負
っている。
(イ) そして,原告は,初めて株式を購入する投資不適格者であるから,
被告らとしては株式投資の方法につき懇切丁寧に説明を行い,一括大量購入は元本
割れするおそれがあるので慎重に判断すべきである旨の注意を行うとともにこれを
中止させるべきであるのに,同措置を講じることを怠った。
(被告らの主張)
本件買付委託は,株式の現物取引という,ごく一般的な証券取引であ
り,原告は株価が下がれば損失が発生することを認識していたこと,本件買付委託
は,原告の方から,対象銘柄(さくら銀行株),買付単価ないし買付時期の判断基
準(株価が600円を割ったら買いたい。),数量ないし買付金額(最終的には1
億5000万円)を指定して申し込まれたのであって,被告Aらが本件株式の購入
を勧めたのではないことなどの事実に照らせば,本件買付に当たって,原告が主張
するような説明義務を被告に認めるのは相当ではない。
(2)ア 争点(2)ア(断定的判断の提供によって,原告は本件株式の売却を断念
させられたか否か)について
(原告の主張)
原告は,平成10年2月12日,被告Aに対し,本件株式全部について
「今もう売りたい」と言って売却してほしい旨申し出たにもかかわらず,同被告か
ら「社長に損をかけたら申し訳ないので売るのは待ちましょう。3月の決算期で株
価は上がる。3月の決算期がだめなら7月の参議院選挙もあるし,9月の中間決算
もあります。例年上がっているんだから。いけます。」などと,近い時期に必ず株
価の騰貴がある旨の断定的判断の提供を受けるとともに,売却依頼を断念するよう
強く勧誘され,本件株式の売却を断念させられた。
(被告らの主張)
当時,原告は,本件株式につき,売却の準備をしたことはあるものの,
株価が原告の希望する600円台に達しなかったため,売却の注文をしなかったも
ので,被告Aは,そのような原告に対し,金融不安によって株価が大きく下落した
後だけに,今後も株価は値上がりや値下がりを繰り返す綱引き状態になるかも分か
らない旨述べたにすぎず,株価が高騰するとの意見は述べていない。
イ 争点(2)イ(本件株式の売却に関する説明義務違反の有無)について
(原告の主張)
被告らは,原告に対し,株式取引に関する委託契約に基づき専門的立場
から適切な助言,説明を行う義務を負っているところ,原告から平成10年1月に
は豊岡市内で実施することを予定していた事業に資金が必要であることを聞いてい
たのであるから,同年2月12日の時点で,本件株式の株価の値下がりが続いてい
るのであれば,これによる原告の損失を最小限にくい止めるように早い段階で売却
するよう助言,説明すべきであったのに,これをしなかった。
(被告らの主張)
(ア) 被告Aは,原告から,豊岡市の土地を購入して新規出店する計画が
あることや,本件株式の購入に充てた資金がそのために準備した資金であるという
ことは聞いていたが,土地購入の交渉がなかなか進展せず,計画の実現はいつにな
るか分からない旨の説明も受けていたものであって,平成10年1月には同資金が必要であるとの話は聞いていない。
(イ) また,原告は,「損失を最小限にくい止めるように早い段階で売却
するよう助言,説明すべきであった」と主張するが,そのような助言は,「有価証
券の価値等又は有価証券の価値等の分析に基づく投資判断に関する助言」(有価証
券に係る投資顧問業の規制等に関する法律2条1項
)に該当し,投資顧問業者の業務であって,有価証券の売買取引の委託
の媒介,取次ぎ又は代理を業務とする証券業者(平成10年法律第107号による
改正前の証券取引法2条8項3号)のなすべき業務ではない。
(3) 争点(3)(被告らの責任の有無)
(原告の主張)
被告Aによる上記(1)又は(2)による断定的判断の提供又は説明義務違反の
各行為は,原告に対する,本件株式の買付委託取引契約上の債務不履行又は不法行
為に該当する。
よって,被告A及びその使用者である被告会社は,債務不履行責任又は不
法行為責任(被告会社においては使用者責任)を負う。
(被告らの主張)
原告の上記主張は否認ないし争う。
(4) 争点(4)(損害の有無,額)について
(原告の主張)
ア 主位的主張
(ア) 原告は,平成9年10月7日,本件株式のうち1万株を購入した
後,被告Aの断定的判断の提供又は説明義務違反により,本件株式の残り25万株
を1億4312万7874円で購入させられたものであるところ,原告が同10年
8月25日及び同月26日に上記25万株のうち16万株を売却して得た金額は4
417万9017円であり,同11年8月19日に同株式の残り9万株を1株49
0円で売却して得た金額は4383万7109円であって,合計金額は8801万
6124円となる。
(イ) したがって,原告は,上記25万株の購入額合計と売却額合計との
差額である5511万1750円及び本件訴訟追行のための弁護士費用788万円
の合計6299万1750円の損害を被った。
イ 予備的主張
(ア) 原告は,平成10年2月12日,被告Aの断定的判断の提供又は説
明義務違反により,本件株式の売却を断念させられたものであるところ,この時点
における本件株式の株価は,1株当たり540円であるから,本件株式を売却して
いた場合の損失は,購入額合計1億4887万2820円と上記売却額合計1億3
961万6070円との差額である925万6750円にとどまったものと考えら
れる。
(イ) したがって,原告は,株式を売却して得た金額合計である9289
万6830円(内訳,平成10年8月25日及び同月26日に本件株式のうち16
万株を売却した代金合計4417万9017円,同11年8月19日に同株式の残
り10万株を1株490円で売却した代金合計4871万7813円)と上記(ア)
の金額との差額である4671万9240円及び本件訴訟追行のための弁護士費用
788万円の合計5459万9240円の損害を被った。
(被告らの主張)
原告の上記各主張はいずれも否認ないし争う。
第3 争点に対する判断
1(1) 争点(1)ア(本件買付委託時における断定的判断の提供の有無)について
ア 前記第2の1(2)の事実及び証拠(甲1,3の1及び2,4の1及び2,
7,10の1ないし5,11,12〈一部〉,13の1ないし3,14ないし1
7,18の1及び2,19の1及び2,20,21,乙1,2,5,7ないし9,
13,14,証人C,被告A,原告本人〈一部〉)によれば,本件買付委託前の事
情及び本件株式売却に至るまでの経緯として,次の各事実が認められ,これに反す
る証拠は同認定に沿う証拠に照らし信用できず,これを採用できない。
(ア)a 原告は,平成8年ころから,兵庫県豊岡市でカラオケルーム等の
事業を興すことを考え,資産を売却して,不動産購入資金として1億5000万円
を準備した。
b そして,原告は,購入予定の不動産を決定し,その所有者と売買交
渉をしていたが,同所有者は平成9年10月2日同不動産をほかへ売却し,同月8日所有権移転登記をしてしまった。
Posted by のんのん at
11:30
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