2010年05月06日

執行判決本訴、請求異議反訴請求事件

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 第一 当事者の求める裁判
 一 控訴人
 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
 3 (予備的反訴として)控訴人・被控訴人間のアメリカ合衆国テキサス州ベク
サー郡第二八八司法区地方裁判所第八三―CI―一四〇六一号事件につき、同裁判
所が平成元年一一月一三日に言い渡した判決に基づいて強制執行をすることは許さ
ない。
 4 訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。
 二 被控訴人
 本件控訴を棄却する。
 第二 当事者の主張
 一 本訴関係
 1 請求原因
 (一) 当事者
 控訴人は日本の国籍を、被控訴人はアメリカ合衆国の国籍をそれぞれ有する者で
ある。
 (二) 外国判決の存在
 (1) 控訴人と被控訴人とは、一九八二年七月三日、アメリカ合衆国テキサス
州の法令に従い婚姻して同州に居住し、同年九月一六日、長女a1をもうけたが、
一九八四年五月一一日にされた同州ベクサー郡第二八八司法区地方裁判所(以下
「本件外国裁判所」という。)の離婚判決(一)Decree of Divor
ce以下「本件離婚判決」という。)によって離婚した。
 (2) 本件外国裁判所は、本件離婚判決において、控訴人をa1の単独支配保
護者(ソール・マネージング・コンサーバターSole Managing Co
nservator)すなわち保護親(カストディアル・ペアレソトCustod
ialparent)、被控訴人を本件離婚判決において定める夏休み等の一定期
間中だけa1をその保護下に置くことができる一時占有保護者(ポゼッソリー・コ
ンサーバターPossessory Conservator)と定め、かつ、本
件外国裁判所の許可なくして州外へ子を移動させることを禁じた。
 (3) 控訴人は、その後、本件外国裁判所の制限付きの許可を得て、一九八九
年五月、a1を連れてテキサス州から日本に転居した。
 (4) 本件外国裁判所は、被控訴人から控訴人に対するa1の親子関係に関す
る訴え(右(2)の単独支配保護者等に関する決定及び右(3)の転居許可決定の
修正変更等を求めることを内容とするもの。以下「本件外国判決事件」という。)
に基づき、陪審裁判による事実審理を遂げた上で、同年一一月一三日、a1の単独
支配保護者を控訴人から被控訴人に、一時占有保護者を被控訴人から控訴人にそれ
ぞれ変更するとともに、控訴人に対し、特定の期間を除いて、a1を被控訴人に引
き渡すこと、及び養育費を支払うことなどを命ずる判決(以下「本件外国判決」と
いう。)を言い渡した。
 (5) 本件外国判決は、同日、同裁判所判決綴第八二九A巻六二二頁ないし六
三四頁に登録され、控訴人が法定の期間内に上訴しなかったため確定した。
 (三) 民事執行法二四条及び民事訴訟法二〇〇条の要件該当性
 (1) 本件外国判決は、民事執行法二四条にいう外国裁判所の「判決」、民事
訴訟法二〇〇条にいう外国裁判所の「確定判決」に当たる。
 外国裁判所の裁判が民事執行法二四条、民事訴訟法二〇〇条にいう「判決」に当
たるか否かは、ある国で認められた権利の他の国における実現を保障し、また、私
的法律関係の国際的安定を確保しようとする外国判決承認制度の趣旨からみて、実
体私法上の法律関係につき、当事者双方の審問を保障する手続により、裁判所が終
局的にした裁判であることをもって足りると解すべきである。
 本件外国判決は、ファイナル・ジャッジメントと称する裁判であり、本件外国裁
判所が当事者である控訴人・被控訴人間の子の監護をめぐる民事上の争訟につい
て、当事者双方の申立及び主張に基づき、証拠開示手続を終えた上で、陪審による事実審理を経て、その評決に基づいて宣告された終局的民事裁判であることは明ら
かである。したがって、本件外国判決は、前記の外国裁判所の「判決」に当たる。
 本件外国判決が言渡後の事情の変化によって変更可能であることは、後の裁判に
よって形成的に裁判の内容が変更される可能性があるというにすぎず、言渡時にお
ける最終判断であるという本件外国判決の性質をいささかも変えるものではない。
 (2) 本件外国判決は、民事訴訟法二〇〇条一号所定の要件を具備している。
 わが国の国際民事訴訟法理論によれば、未成年の子の親権者の指定・変更、監護
者の指定・変更等については、子の現実の居住国の裁判管轄権を認めるべきである
としても、民事訴訟法二九条によれば、管轄決定の標準時は起訴時とされているの
で、国際裁判管轄権についても、同条の類推により、外国訴訟の起訴の時点での判
決国の一般管轄権が肯定されるかどうかの判断によるべきである。
 本件外国判決事件につき、被控訴人が本件外国裁判所に提訴した時点において
は、a1はアメリカ合衆国テキサス州に居住していたのであるから、本件外国裁判
所が本件外国裁判事件につき管轄権を有していたことは明らかである。
 (3) 本件外国判決は、民事訴訟法二〇〇条二号所定の要件を具備している。
 本件外国判決事件の審理には、控訴人代理人弁護士ラワン・ホーランド及び同キ
ャロル・ホーランドが出頭しているので、同号の要件を満たしている。
 (4) 本件外国判決は、民事訴訟法二〇〇条三号所定の要件を具備している。
 「1」 外国判決の内容が公序良俗に違反するか否かは、判決の主文のみについ
て判断すべきか、判決理由をも判断の対象とすべきかについては争いがあるが、後
者の立場も、判決主文の導かれるに至った基礎認定事実をも考慮すべきであるとす
るに止まり、判決理由で認定されていない事実をも斟酌し得るとするものではな
い。控訴人の主張する事実は、いずれも本件外国判決の認定していない事実である
か、本件外国判決宣告後の事情であって、本件外国判決が公序良俗に違反するか否
かの判断に当たっては斟酌することのできないものである。
 「2」 仮に、民事訴訟法二〇〇条三号の「公ノ秩序」に手続的公序が含まれる
との立場に立ったとしても、手続的公序に違反するとされるのは、文明国に共通す
る民事訴訟の基本原則に反する不公正な事由があった場合であり、もとより各国の
訴訟手続はその司法制度との関連により異なるので、判決国の訴訟手続がわが国の
訴訟手続と異なっていること自体は問題とすべきではない。家事審判規則五条は、
本人の原則的出頭義務を規定したに止まり、裁判所が本人の陳述を聞かないで裁判
をすることができないとの趣旨を含むものではない。そして、本人の陳述を聞かな
いでした裁判が同条に違反するが故に瑕疵ある裁判になるわけでもない。いずれに
せよ、本人の原則的出頭義務の規定が文明国に共通する民事訴訟の基本原則を示す
ものでないことは明らかであり、本件外国判決が下されるに当たって、控訴人の代
理人弁護士が出頭したに止まり、控訴人本人及びa1が一度も出頭しなかったとし
ても、かかる事実は、文明国に共通する民事訴訟の基本原則に反する不公正な事由
に当たるということはできない。
 「3」 控訴人は、テキサス州における裁判中に、保証金を積んで一時的に同州
の外に出る許可を得たものの、判決当日に本件外国裁判所に出頭しなかったので、
控訴人が積んだ保証金は没収されるとともに、控訴人に対して右裁判所から出頭命
令違反により人身保護令状が発行されているのである。控訴人は、右裁判所の判決
の執行を免れるために日本に逃亡してきたのであり、逃亡後の事情をもって、公序
良俗違反を云々するものであって許されない。
 (5) 本件外国判決は、民事訴訟法二〇〇条四号所定の要件を具備している。
 「1」 テキサス州の民事訴訟手続及び救済方法に関する法律(以下「民事訴訟
手続法という。)三六・〇〇四条は、金銭の支払に関する外国判決の執行につい
て、不承認事由に該当しない限り執行可能であるとし、三六・〇〇五条の定める不
承認事由は、重要な点で民事訴訟法二〇〇条各号所定の条件と異ならない。また、
同州家族法一一章B節統一未成年子監護権裁判法は、一一・六三条において、アメ
リカ合衆国の他州の監護権判決(Out―of―state Costody D
ecrees)のテキサス州における執行力を極めて緩やかな条件で広く認め、か
つ、一一・七三条において、これを一般的に合衆国外の国際的領域に適用してい
る。したがって、本件外国判決と同種類の判決につき、わが国とテキサス州との間
に相互の保証があるというべきである。
 「2」 同法一四・三一条は、執行に関する手続規定であり、外国判決の内容を
再審査するものではないので、相互保証の要件があることを認める妨げとはならな
い。
 2 請求原因に対する控訴人の答弁及び主張
 (一) 請求原因(一)の事実及び同(二)のうち(1)ないし(4)の事実を
認め、同(5)のうち、登録及び確定の事実は不知。
 (二) 同(三)について
 (1) 本件外国判決は、民事執行法二四条にいう外国裁判所の「判決」及び民
事訴訟法二〇〇条にいう外国裁判所の「確定判決」に当たらない。
 テキサス州家族法一四・〇八条(c)は、次のように規定しており、単独支配保
護者の決定が変更可能なものであること、及び変更の要件が通常の確定判決に対す
る再審の要件とは大きく異なることが明らかである。
 「裁判所は、審問(hearing)の後、以下のような要件のもとに、命令
(order)又は判決の一部(apretioh of decree)を修正
することができる。
 単独支配保護者を指定したものについては、
 (A) 当該子、単独支配保護者、一時占有保護者、又は当該判決若しくは決定
に利害関係を有するその他の者の事情が、修正さるべき当該判決若しくは決定が下
された日以降、大きくかつ実質的に変化し、かつ、
 (B) 現在の単独支配保護者を維持することが当該子にとって有害であり、か
つ、
 (C) 新たな単独保護者を指定することが当該子にとって積極的な改善をもた
らす場合」
 このような裁判は、外国での執行判決をすることを認めても法律関係をいたずら
に混乱させるのみであるから、民事訴訟法二〇〇条にいう「確定判決」には該当し
ないと解すべきである。
 (2) 本件外国判決は、民事訴訟法二〇〇条一号所定の要件を具備していな
い。
 わが国の国際民事訴訟法理論においては、親権者の指定・変更ないし子の監護処
分については、子の住所地に管轄権を認めるものとされているところ、子であるa
1は、一九八九年四月一二日に下された判決による許可に基づき、同年五月一七日
に来日し、住居を日本に移していたのであるから、本件外国判決事件の提起された
同年九月六日にはアメリカ合衆国に住所を有していなかったので、本件外国裁判所
は、わが国の国際民事訴訟法の下では管轄権を有しなかったというべきである。
 なお、子の福祉を実現するという観点から裁判所が後見的に判断を下す子の監護
処分については、裁判管轄権の所在を当事者の意思に委ねて合意管轄ないし応訴管
轄を認めることはできないというべきである。
 (3) 本件外国判決事件の審理に被控訴人の主張する者が出頭したことを認め
る。
 (4) 本件外国判決は、民事訴訟法二〇〇条三号所定の要件を具備していな
い。
 「1」 本件外国判決のように、陪審の下した結論のみを記載した判決について
は、手続中に現れた資料から公序良俗違反性を認定し得るし、また、本件のように
子の引渡請求に関しては、現に当該子の居住しているわが国としては、その子の福
祉に対して関心と責任を持つことを要求されるので、外国判決の承認・執行の是非
を判断する際には、判決後の事情を含めて子の福祉に係わる一切の事情を考慮すべ
きものと解するのが相当である。
 「2」 本件においては、次に述べるような事情があるので、本件外国判決を承
認・執行することは、わが国の公序良俗に違反する。
 a 本件外国判決がa1の単独支配保護者を被控訴人に変更したのは、アメリカ
人と日本人との間の子として生まれたa1が、日本において混血児として差別を受
けるであろうという日本社会に対するいわれなき偏見に基づく証言に陪審が影響を
受けたことによるものであり、不当な考慮に基づくものである。
 b 本件外国判決が下されるに当たって、本件外国裁判所の法廷に控訴人の代理
人弁護士が出頭したに止まり、控訴人本人及びa1は一度も出頭していない。日本
においては、家事審判規則五条が本人出頭主義を採用しているところ、これは家事
事件においては事件の実相を把握することが特に重要であるとの考慮に基づくもの
であり、本人出頭主義は手続上の公序を構成するものと解される。したがって、本
件外国判決はかかる手続上の公序に違反してされたものである。
 c 被控訴人は、「偏執症」の性格を有する者であって、大学からドロップアウ
トしたり、職を転々としたりしており、社会生活を送る上で問題が多いと評価されている。現に被控訴人は、両親と絶縁状態にある上、控訴人との離婚後に再婚した
女性とも離婚し、その間にもうけた子の監護をめぐる訴訟に関して同女を脅迫する
などの行為に出ている。被控訴人は、離婚判決後、a1が被控訴人方を訪れた際、
ポルノ雑誌をa1の目に触れるような場所に散乱させておくなど、その成育に有害
な行動をしていた。これらの事実に、a1は、来日後既に三年を経過し、日本社会
に完全に順応して安定した生活を営んでいる反面、英語をほとんど解し得なくなっ
ているため、アメリカ合衆国に連れ戻された場合にはかえって順応が困難となるこ
となどを併せ考えると、本件外国判決を承認・執行することは、a1に明白な害を
もたらすものである。
 d 被控訴人は、最近勤務先から解雇され、定期的な収入を期待できない状態と
なった。そのため、被控訴人は、後妻との間の子に対する扶養料の減額を裁判所に
申し立てており、その弁護士費用も支払えない状態である。
 e 被控訴人は、a1が日本に移住した後、弁護士を介して政治家に金銭を渡
し、その政治的圧力ないしコネクションを利用してa1をアメリカ合衆国に連れ戻
そうと企て、素性の知れない人物を雇って控訴人宅の周辺で聞き込みをさせたり、
また、一九九三年四月三〇日には、被控訴人自らが来日して、突然控訴人の留守宅
を訪れ、更にはa1の通っている小学校にまで赴いて、嫌がるa1に面会を強いる
など、不当な手段によりa1との接触を図っている。



Posted by のんのん at 16:04│Comments(0)
 
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